批判と非難。

 批判と非難は違います。批判とは、ある物事の良し悪しを評価し、良くないところがあればこれを指摘することを言います。これに対して、非難とは、ある物事の良くないところを責めて咎めることを言います。批判も非難も、ダメ出しをすることを言うので、一見、何にも変わらないようにも思えます。ですが、批判は、本来、「良し悪しを評価」することをその本命とするもので、良いところを誉めて残すことも含意します。これに対して、非難は、あくまでも、良くないところがあるのを前提として、これを「責めて咎める」ことを本命とするもので、良いところの存在を予定しない言葉です。よって、良いところを見るかどうかという点で、批判と非難は違うのです。
 そして、そういう違いがある背景には、それぞれの目的に関連して根本的な違いがあるように思います。
批判には、その対象の良いところを残した上で、良くないところだけを変えるという目的があります。したがって、批判する側は、心理的に、批判対象それ自体を、自らの秩序を成す要素として受け入れた上で、批判します。これに対して、非難には、その対象の良くないところを排除するという目的があります。したがって、非難する側は、心理的に、非難対象を、自らの秩序を成す要素として受け入れずに、むしろ排除しようという考えで、非難します。このように見てくると、批判する人にとって、批判対象は「仲間」として映りますが、非難する人にとって、非難対象は「仲間外れ」として映るということが分かります。
 そんなことを念頭に置いていろんなものに触れていると、世の中には、確かに冷静で的を射た「真正の批判」もたくさんありますが、「批判のフリをした非難」もずいぶん溢れているように感じられます。もちろん、前述のように、批判と非難はずいぶん似ているので、批判しようと思ったのに非難をすることになってしまうという事態も、特に不思議なものではありません。ですが、本来のダメ出しとは大して関係のない点を持ち出して、感情的な悪口に発展させるような言説は、そういう「よくある誤謬」の域を出ていると言わざるを得ません。もしかすると、本人がスカッとするというメリットがあるかも知れないので、こうした言説を一般的かつ全面的に否定するのは躊躇しますが、少なくとも生産的な議論とは言いがたいものがあります。
 他人の「品格」を指摘するのも大切ですが、自分の「品格」を育む姿勢も同時に忘れないようにしたいものです。